企業対談 vol.09「新しいスミダの形」
工場・企業・職人を取り巻く環境が大きく変わっていく中、環境の変化に対応するべく覚悟を持ってチャレンジするMERIKOTI(オレンジトーキョー)の小高さん、浜野製作所の浜野さん。
墨田区が素地を持ってきてない事業で、墨田に新しい空気と化学反応を促すアグリガレージ研究所の宮内さん。
そんな、新しい事業・取り組みにチャレンジしていく3社、代表の3名にお話を伺いました。
「新しいスミダの形」というテーマについてどう考えていますか?
アグリガレージ研究所:宮内アグリガレージ研究所のやっていることは、墨田区既存の技術とはちょっと違うものを入れていく形ですかね。
アグリやバイオといった分野で、町工場さんと組んで新しいことができたらと、色々とチャレンジしています。
具体的には、墨田区で農業を始めよう!というような取り組みをしています。
露地で野菜を育てるのではなく、部屋の中で人工的な環境で育てる植物工場に空き工場を活用し、そこで採れた野菜を墨田の商店街で売るなど(地産地消をすることで)地域活性化を目指しています。
また、部屋の中で農業をするための設備等は、墨田の技術で作れると思っています。そこで墨田区のプロトタイプがつくりたいと思って活動しています。
MERIKOTI(オレンジトーキョー):小高どれくらいまで進行しているんですか?
宮内今年の4月にお披露目、スタートしました。野菜のほうは少しずつ生産できています。
先日、THE GREENMARKET SUMIDAというイベントに出店し「すみだ野菜」というブランド名で野菜を販売しました。また、キッチンカーですみだ野菜を使った料理も販売しました。
小高どんな野菜を作っているんですか?
宮内葉物野菜を中心に作っています。今育てているのは、少量でも付加価値の高いバジル、ルッコラ、パクチー、ケールなどです。
取材基本的には少量で価値の高いものを考えているんですか?
宮内はい。部屋で育てる=露地に比べ光や空調のコストがかかり、安く作ることが難しいので、少量でも高く売れる野菜を育てていくことにチャレンジしています。
小高どんな料理ができるんですか?
宮内今カフェで出しているのがバジルを使ったジェノベーゼソース、ルッコラをハンバーガーに挟んでもらったりetc。この間のマルシェでもトルティーヤに使ってもらいました。これからももっとすみだ野菜をつかった料理を増やしたいと考えています。
小高味はどうなんですか?おいしいんですか?
宮内おいしいかどうかは人それぞれ感じ方がありますよね(笑
ちゃんと肥料が入って育てていれば、外で育てる野菜と変わらないほどいいものはできます。また外で育てないので虫もはいってこなく、無農薬で育てることができます。
買ってもらって、食べてもらって、知ってもらうことができればと思っています。
浜野製作所:浜野以前アグリガレージ研究所の野菜でつかった料理を食べたとき、新鮮で食感がよかった。
専門家がちゃんと育てた取れた野菜が東京23区の墨田で食べられるのはすごい贅沢だとおもう。ほんとおいしいんだよ!・・・というのを以前宮内君に話そうと思ってたんだった(笑
取材小高さん、話お伺いできますか?
小高はい。墨田区は区内の地域ごとにモノづくりの産業があるんですが、オレンジトーキョーのある両国は、繊維・メリヤスの業態が集積していた場所なんですよね。僕の祖父が、戦後住み込み("でっち")で働いて技術を覚えて独立しニット工場を築き、僕は3代目として工場に入りました。
ちょうどバブルがはじけて就職氷河期の中でしたね。繊維業界も状況は悪くなるばかりでした。発展途上国が目覚しく発展している流れでいうと、繊維産業は取っ掛かりやすいんです。資格もないし、機械も優れ、資本があり努力をすれば産業として成り立つ。発展途上の国が豊かになる最初のステップが繊維産業なんです。戦後、高度成長期と呼ばれているときは繊維産業も右肩あがりでいい時代。
その後、高度成長期が終わり、社会が豊かになりはじめて大量生産にブレーキがかかり始め、とりあえずの服ではなくファッションになり、そこで中だるみをした後、生産が海外へという流れになっていき、大きな節目はバブルが崩壊、繊維産業が低迷に陥っていくという歴史がありました。
そして、うちは服でいうところの部品、襟や袖などパーツだけを専門で作ってきたので、製品自体を作っているわけではないので自分たちの力ではどうにもならない。繊維産業自体も先が見えず、今後伸びるのか?という状態になっていました。
そんな中で私たちにはニットを編むことしかできないので、編む技術で何か製品化し、自分で売るという方法しかないと考えました。そして、室内履きぞうりに出会い、ブランディングをして、生産、製造、販売をしています。工場自体は70年ほどの歴史があるが、僕はそこから独立をして、ぞうりのほうの会社を3年前に立ち上げ事業をやっています。
重工業、農業、軽産業etc・・・と墨田っていろんな素地があるがこれ!という、皆さんにわかりやすいものはつくっている訳ではないんですよね。
つくっている本人たちも、最終製品がわからない場合が多いんです。うちも襟を作っていて、ブランド製品に使われているかも知れないけどつくって納めているだけなので、どんな製品になっているかわからない。
取材それは全然わからないんですか?
小高うん、もしかしたら街で自分の製品とすれ違っているかもしれないけど、よっぽど特徴的なものでなければわからないですね。
そうそう、新しい墨田という流れでいうと、直接消費者に販売できるものを工場発信でつくっていこうという流れが、スカイツリーができたことをきっかけに僕らの世代や若い世代が目覚めて、
自分たちでニーズを理解し"わかりやすいもの"を売るなり発信するなりという流れができている。その中で、業界が違う横の繋がりができて、今までにはない異次元のモノづくりの地域になってきている。
昔は中小企業=大田区というイメージがあったが、実は墨田区のほうが中小企業の数が多い。なのに、目立たなかった。特質した技術があるということがないので注目されずらかった。
あとは本当に小さか会社がいっぱいあるということ。ところが、浜野さんを筆頭にメディアに取り上げられる方が出てきて墨田区の露出することが増え、もともとあった素地が表に出てきている。
区長などともsnsを通じてつながっている。そんな区ほかにないと思うんですよね。
取材そうですね、数々の中小企業が集まって何かを起こそう!とすることは聞かないので、珍しい区だなとおもいます。
小高まだまだ成熟してない、スタートしたばかりですけどね。
浜野内部的な小さな環境の変化に対応してビジネスをやっていると思いますよね。
アグリガレージ研究所は他の地域から来て墨田で新しいことをはじめる、オレンジトーキョーは墨田にいながらも業種や業態を変えてチャレンジしていく。
僕ら実を言うとやっていることはずーと昔から変わらないんですよね。ただ思っていること、なぜスミファをやるのかという部分はスタートした5年前から根っこの部分は変わっていないんですよ。
だけど、僕らを取り巻く環境が変わっていく中で、中小企業が大手企業の下請けだけでは会社は存続できなくなったとき、自分たちの足・自分たちの想いや情熱で新しい道をつくっていこう!という、そこだけが変わってきている。
それぞれ業種は違うけれど自分たちの手で新しい道をつくっていくということは共通点かな。
ここにいる3人とも、またスミファに参加している各企業さんも。それぞれ抱えている背景は異なるけど、共通している部分はそこじゃないかな?
それが、変わらないながらも変化いく、新しいすみだの形かもしれないね。
小高そうだ。。スミファだよね。
浜野今、さらっと言ったかもしてないけど、ものすごく大変な苦労をしているんだよ。
小高今度映画化されるんだよ
取材!!(笑
小高冗談だよ(笑
浜野本当に映画になってもおかしくないくらいのことがあるんだよ。
新しいことに取り組んでいくときの見つけ方、きっかけ、行動力はどこから生まれてくるんですか?
小高僕は小売なので、お客さんからの声ですかね。製品を使っ手いただいた声をきいたり、他の商品との比較をしたり。お客様の声が100%ではないけれど(笑
あと、自分の直感ですね。
浜野うちは工場なので、日本全国の町工場の繋がりがある中で聞く工場仲間の声ですかね。「大手企業の下請け仕事をしていて・・・なかなか経営が厳しい・・・」と
大手企業の文句を言っている経営者も多くいます。勿論、そんな経営者ばかりではありませんし理不尽な要求は是正してもらわなければならない。
しかし、大企業には大企業ならではリスクがあるのでそれなりの利益を出して行かないと企業が存続出来ない事情もあると感じます。
あいつがイケない・こいつがイケない・・・と文句を言っているだけでは何も変わりませんし、何も生まれない。町工場も自らが新しい道や取り組みにチャレンジしていかなければならないのでは?と感じています。
宮内見つけ方としては、様々な業種の方とのコミュニケーションの中で「これできそうだな」ということを、自分の持つネットワークの中から組み合わさせて生まれてくるような感じなんですよね。
組み合わせることで解決ができるとか。いろんな人と話して課題を聞いて、見つけて提案していくことですかね。
浜野車やTV・冷蔵庫を買いたいので頑張って来た時代がありました。しかしながら現在は世の中に「モノ」は溢れています。
日本の社会が豊かになって行く中で「モノ」に対する価値観が変化している様に感じます。
技術や経験・業界・業種・地域を超えてネットワークを結ぶ事によって新たな価値を生み出し、その価値が世の中や社会の課題の解決につながる・・・。
こんな価値が提供できる様な町工場になれたら世の中でも・社会的にも存在意義が残せるので・・・と感じています。
そういう意味からも環境の変化に対応するべく「新しい取り組み」を始めなくてはならない様に感じます。
取材担当者より一言
今回の対談を通じて様々な想いを感じました。
皆様の墨田区に対する熱い想いやモノづくりに対しての熱意や向上心を感じました。自分の父も会社を経営していて、会社に対する想いや熱意はありますが、それとはまた違ったものだと思いました。
宮内さんのお話では、都内で採れたての野菜を食べられるというお話がとても印象的です。人が多く、建物ばかりの東京で畑を使わずに野菜を育てるという発想がとても面白かったです。
次に、小髙さんのお話では、服は工場などで1つの物として作られていると思っていたので、襟や袖が服本体とは別で作られているということに驚きました。また、小髙さんのお客様の声を大切にする想いを強く感じました。
最後に浜野さんのお話では、何かに対して、理不尽だと思うのは、自分自身が能動的か受動的かというお話にとても共感しました。
最近では、友達が愚痴を言っていたら浜野さんのこのお話をしています。そして何より皆様笑顔で楽しそうにお仕事についてお話ししていたので、自分の仕事を楽しんでいるのだと感じました。
今回この対談だけですが本当に参加してよかったと思っています。
ただ学校生活を送っていただけでは絶対に得ることができない事をたくさん得られたので、今後も機会があったらどんどん飛び込んで行きたいと思います。
依田 寛也(高千穂大学)
取材担当者より一言
このような対談の形式あは始めてだったので緊張もしましたが、非常に社長さんたちもフレンドリーな方々だったのですごく楽しい時間が過ごせました。
取材担当:土田将吾(高千穂大学)
取材担当者より一言
新しいスミダのカタチというテーマでお話を聞かせていただきましたが、分野の違う製造業でそれぞれの今後スミダでどのように活動していくか、
スミダをどのようにしていきたいのかなど具体的にビジョンを明確に持ち、それに向けて何をするかなどのお話も聞けたので、感心するとともに勉強になりました。取材にご協力下さりありがとうございました。
取材担当:竹内香保里(高千穂大学)
記事:前島昭美
企業担当:依田 寛也(高千穂大学)・土田将吾(高千穂大学)
取材:竹内香保里(高千穂大学)・依田 寛也(高千穂大学)・土田将吾(高千穂大学)